ぼんやりとすること(マインドワンダリング)のメリットとデメリット
マインドワンダリングとは何か
現在の状況や環境に関係のない自発的な思考のことを心理学では刺激独立思考または課題無関連思考と呼び、この状態の思考に移行する現象のことをマインドワンダリングと呼びます。
分かりやすく言うと、仕事中にぼんやりと全く関係のないことをあれこれと思いめぐらし始めたらマインドワンダリングをしたと言えます。
ハーバード大学のダニエルギルバートらの研究チームが2010年にscienceに発表した研究によると、マインドワンダリングはどの活動中においても頻繁に生じることが分かっています。
起床時間中のランダムな瞬間にiPhoneのWEBアプリを介して2250人の成人の参加者(男性58.8%、米国在住73.9%、平均年齢34歳)に連絡し、その瞬間の心の状態を質問に回答してもらうことで日常生活における思考のサンプリングを行ったところ、サンプルの46.9%がマインドワンダリング中であることが明らかとされました。
また恋愛を除くすべての活動中に採取されたサンプルの少なくとも30%がマインドワンダリング中であり、どの活動中においてもマインドワンダリングが高い割合で発生していることも確認されています。
マインドワンダリングのメリット・デメリット
このようにどの活動中にも頻繁に発生するマインドワンダリングですが、メリットとデメリットがあることが分かっています。
メリット
大きなメリットとして、マインドワンダリングは創造性に役立つことが分かっています。
従来はマインドワンダリングは無駄な時間であり集中力が欠如していることの現れだとして否定的にとらえられてきましたが、創造性課題を解かせる心理学の研究においてマインドワンダリングの傾向が強い人の方がアイデアの数を多く出せることが確認されています。
この理由は、創造性を発揮させるためには問題解決から一旦離れて意識をさまよわせておくことが不可欠だからです。
これは創造性の研究分野において広く知られており、創造的思考メカニズムは「ワラスの4段階」として整理されています。
そのステップは以下のようになります。
①初めに必要な情報を集めて問題解決に熱中
②次に一旦その問題解決から離れる
③いつか突然アイデアが降ってくる
④最後にそのアイデアが正しいことを検証し思考が完成
アイデアを出すためには問題解決から離れる時間が必要であり、創造性を発揮するためにはマインドワンダリングが欠かせないことが分かっています。
ただし、創造性を発揮するためにはただマインドワンダリングをするだけではなく①の問題解決に熱中する時間も必要です。
この時間が無いとただ意識が無目的にさまようだけになってしまいます。
①の時間を十分にとればマインドワンダリング中にその問題解決の方向に意識がさまよう傾向があることが研究で確認されており、①の時間を取ることでマインドワンダリングの時間を建設的にすることができます。
また脳を正常に機能させるためにマインドワンダリングが不可欠である可能性が指摘されています。
これはマインドワンダリングが脳のDMN(デフォルトモードネットワーク)やWMN(ワーキングメモリーネットワーク)と関わりがあることが明らかになってきているためです。
いまだ解明されていないことも多くありますが、マインドワンダリングは人の日常生活において多くの割合を占めており、人の進化の過程で不必要な機能は淘汰されている可能性が高いことからマインドワンダリングは何かしら有益な機能を果たしていると考えられています。
注意点(デメリット)
注意点としてマインドワンダリング中はそうでない時と比べて幸福度が下がることが明らかになっています。
上記で挙げたハーバード大学のダニエルらの研究では、マインドワンダリング時の心の内容として不快なトピック(サンプルの26.5%)や中立的なトピック(サンプルの31%)よりも楽しいトピック(サンプルの42.5%)の割合が高かったものの、楽しいトピックについて考えるときですら人々は現在よりも幸せではなかったと報告しています。(もちろん中立的なトピックまたは不快なトピックについて考えると現在よりもかなり不幸という結果です)
この結果を支持する報告は多く、多くの研究において抑うつ傾向が強い人は自己や過去に関するマインドワンダリングが多いことも示されています。
そのためマインドワンダリングが多すぎると幸福度は下がると言えます。
対策
この対策としてマインドフルネスが挙げられます。
マインドフルネスは自分の心を捉え今この瞬間に注意を向けるトレーニングのことであり、これを継続することによって脳が物理的に変化しマインドワンダリングをある程度コントロールできるようになっていきます。
マインドフルネスについては過去に詳しく解説していますのでぜひご覧ください。
- 瞑想が人体におよぼず影響とその効果
- 瞑想法で得られる効果とその原理について|マインドフルネス
- マインドフルネス認知療法の要素である集中と観察は気分障害(うつ病)にどのような貢献をするのか:3群ランダム化比較試験