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高強度及び低強度の有酸素運動が健康や生産性に及ぼす影響

高強度及び低強度の有酸素運動が健康や生産性に及ぼす影響
2020年11月29日
今回の記事では論文や書籍を概観し、散歩やランニング等の強度が違う運動が健康や生産性に及ぼす影響について解説します。

高強度及び低強度の有酸素運動が健康や生産性(パフォーマンス)に及ぼす影響

有酸素運動が身体に及ぼす影響とそのメリットについては、こちらの記事で説明しました。
では、健康や生産性を向上させるためには具体的にどの運動が効果的なのでしょうか?
今回の記事では論文や書籍を概観し、散歩やランニング等の強度が違う運動が健康や生産性に及ぼす影響について解説します。

ランニング等の中~高強度の有酸素運動が生産性や健康に及ぼす影響

1.運動直後の生産性が上がる

ランニングをすると直後の集中力や創造性が増大し、生産性が高まることが分かっています。
実際に、アメリカの学生を対象に最大心拍数の90%に達する強度のランニングを早朝10分間させたところ、運動直後の授業の成績が優位に伸びたことが報告されています。
また学生を対象者として45分の有酸素運動試験を行ったところ、直後の2時間において創造性が高まったことも明らかになっています。

運動直後の生産性が高まる原理として、まず脳内の血流が良くなることとが挙げられます。
これは運動によって血中の二酸化炭素分圧が上がるために生じます。
実際に、脳の血流は有酸素運動の負荷を増大するとそれに伴い増大することが複数の論文のメタ分析により確認されており、最大心拍数の20-40%に達する運動を行うと10%、最大心拍数の50-80%に達する有酸素運動を行うと20%脳の血流が増加することがわかっています。

他に運動直後の生産性が高まる原理として挙げられるのが、脳内神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、ノルエピネフリン等)の分泌量の増加です。
一例を上げると、中程度から高強度の有酸素運動をすることによって血液中のカテコールアミン(ドーパミンやノルアドレナリン等)濃度が増加し、これが迷走神経-孤束核経路を刺激し脳内のカテコールアミンの合成と放出を誘発することが示されています。

2.長期的な生産性が上がる

ランニングをすることで長期的に脳の機能を高めることができます。

実際に、60歳以上の15名が週に3回25-30分の有酸素運動を12ヶ月間行い、対象群の15名は有酸素運動の代わりにストレッチを行ったところ、運動群では記憶機能に重要な前帯状皮質と海馬における血流が増加し、ストレッチをした人達と比較して記憶検査のスコアが平均47%改善されたことが明らかになっています。
さらに、他の研究では心肺機能の高さと脳の神経伝達効率が相関することが示されており、運動を行い心肺機能を高めることで実行機能(目標を設定し段取りを決めて実行する能力)が長期的に向上することが分かっています。

有酸素運動が脳の機能を長期的に高める原理として、脳内血流が増加することだけでなく、筋肉や肝臓、脂肪細胞などの代謝の相互作用により、脳細胞の神経保護や脳細胞数の増加、シナプスの繋がりを増強するBDNF(脳由来栄養因子)が分泌されることが挙げられます。
運動によって代謝が変化すると、筋肉や肝臓、脂肪細胞などが分泌する物質の一部が脳血液関門を通過し、脳内のBDNF濃度を高めます。

以上を整理すると、運動直後は脳の血流や神経伝達が増加するために生産性が高まり、
運動を継続すると脳細胞が増加しシナプスの神経伝達強度が高まるため長期的な生産性も向上すると言えます。

3.健康になる

またご存じだと思いますが、有酸素運動をすると当然健康にもなります。
中程度~高強度の有酸素運動をすることによって、代謝(体内の一連の化学反応)が健康に良い方に変化し、
糖尿病や心臓病、大腸がんのリスク等が下がることが分かっています。
米国の医学界は、「運動は薬だ」というスローガンを掲げていて、積極的に運動することを進めています。

散歩等の低強度の有酸素運動が健康や生産性に及ぼす影響

一方、散歩によって生産性が高まるかどうかは、効果があるという研究結果も無いという研究結果も多数報告されており、まだ結論はでていません。
1日40分のウォーキングを1年間継続した場合、海馬の細胞が2%増加したという研究結果もある一方、散歩と脳機能の関連について複数の文献を比較調査した2020年のメタ論文においては、効果が認められないという結論がでています。
そのため、生産性を高めるという観点では散歩より中程度から高強度の有酸素運動をした方が良さそうだと考えられます。

しかし、散歩は気分の向上に関しては非常に効果的であることが分かっています。
一例を上げると、カナダの研究においてうつ病を持つ30人に週3回20〜40分のウォーキングを6週間続けさせた結果、
うつ病が有意に減少し、同時に精神的な幸福感も有意に増加していることが確認され、散歩が気分の向上に役立つことが明らかとされました。
さらに、うつ病の低下に関して10分のウォーキングは45分の有酸素運動と同等の効果が認められるという研究結果もあり、散歩が気分の向上に大きな役割を果たすことが示されています。

また、中程度から高強度の有酸素運動と同様に散歩も健康にとって有益であると言えます。
散歩が健康に影響を及ぼす効果について複数の論文を比較検証(メタ分析)した研究では、散歩をすることによって血圧や安静時心拍数、体脂肪、総コレステロール等が優位に低下し、明らかに散歩が健康において幅広く有効であることが示されています。

まとめ

中程度~高強度の有酸素運動をすると直近の生産性を高めることができ、長期的にも脳の機能を高めることが期待できます。
低強度の運動は気分の向上に非常に効果的です。
どちらの運動も健康の向上に役立つと言えるため、積極的に行ってみましょう。

参考文献