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睡眠

睡眠不足による損失:職場の生産性の損失とそれに付随した経済的損失

睡眠不足による損失:職場の生産性の損失とそれに付随した経済的損失
2020年10月29日
こちらの記事は、睡眠不足による損失についての研究論文を要約した記事になります。日本人は睡眠時間が少ない傾向にあり、それが経済的な損失になっていることが研究されている面白い研究だったので、ご紹介します。

調査した研究論文について

睡眠が仕事の生産性に及ぼす影響について、タフツ大学医学部のデブララーナー博士が2010年に行った研究を要約したものになります。
文献:The Cost of Poor Sleep: Workplace Productivity Loss and Associated Costs

今研究の要約

睡眠が仕事の生産性に及ぼす影響を調査した。
4つの企業の従業員(サンプル数4188人)の睡眠パターンを調べ、労働遂行能力の低下率が測定できる質問票に答えてもらい、従業員を4パターン(不眠症の人、睡眠不足症候群の人、睡眠に関して潜在的に問題を抱えている人、良い睡眠を取っている人)に分けて分析した。

不眠症&睡眠不足症候群の人たちと、睡眠に関して潜在的に問題を抱えている人&良い睡眠を取っている人たちとを比べると、前者の生産性、業績、安全性の結果が大幅に悪化した。
睡眠に関連する生産性の損失は、従業員1人あたり年間1967ドルかかると推定された。

結論として、睡眠障害は、雇用主にとって高コストで従業員の生産性の低下に寄与する。

今研究の目的

2005年の国立衛生研究所の報告書によると、米国の成人の30%が睡眠に障害を抱え、10%が不眠症によって日常に支障をきたしていると推定されている。
しかし、睡眠に関する障害は健康上の問題(つまり、病気)ではなく個人的な選択と見なされることが多いため、睡眠障害の診断と治療に大きな隔たりがある。

例えば、米国では推定2,000万人の睡眠時無呼吸症の人のうち、診断および治療を受けたのは約20%に留まっている。
また、従来の研究により、睡眠障害はうつ病、自殺、不安神経症、糖尿病、肥満、高血圧に関連していることが示されており、十分な睡眠をとっている人と比較して、睡眠に障害を持つ人は仕事及び日常生活で事故や怪我をしやすいことが分かっている。

本論文では、睡眠障害が従業員の健康、安全性、生産性及び仕事の成果に与える影響を評価することを目的とする。

今研究の方法

WLQは労働者の心身の不調による労働遂行能力の低下率が測定できる質問票であり、「仕事上の時間管理」、「身体的パフォーマンス」、「精神・対人関係」、「仕事の成果」の4つの尺度で構成されている。

今回、医療業界、製造業、地上輸送、航空業界の4つの企業の従業員にWLQを回答をしてもらい、質問票の90%以上に回答した4,440名を解析対象者とした。
回答者を米国睡眠医学学会が定めた診断基準に則って、4パターン(不眠症の人、睡眠不足症候群の人、睡眠に関して潜在的に問題を抱えている人、良い睡眠を取っている人)に分けて分析した。

なお、睡眠に関して潜在的に問題を抱えている人の定義は、睡眠障害の診断基準には満たさないが、睡眠に関して問題を抱えていると考えている人であり、良い睡眠を取っている人の定義は、睡眠障害の診断基準に満たされず、睡眠に関して何も問題が無いと考えている人である。

得られたデータは、一元配置分散分析とカイ二乗検定によって分析した。なお、有意水準は0.05とした。

今研究の結果

睡眠特性

TABLE 1.に、4つに分けた回答者の睡眠特性を示した。
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(左から順に、不眠症の人、睡眠不足症候群の人、睡眠に関して潜在的に問題を抱えている人、良い睡眠を取っている人)
(上から順に、存在割合、平均年齢、男性の割合、平均BMI、平均必要睡眠時間、平均睡眠時間、入眠までの平均時間、睡眠期間中の平均起床回数)

回答者は、十分な睡眠を得たと感じるには一日当たり平均7.6時間の睡眠時間が必要であると述べていたが、睡眠時間は平均6.4時間であった。
回答者の内、良い睡眠を取れていると感じている人は45%のみであった。

職務範囲及び睡眠属性ごとの能力

FIGURE 1.に職務範囲及び睡眠属性ごとの能力が低下した時間の割合を示した。
(縦軸は時間の割合。横軸は左から時間管理、精神および人間関係、成果、身体的パフォーマンス)

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4つの測定項目全てで有意差が生じ、すべての項目で睡眠に問題を抱えている人の職務能力が大幅に低下していた。

生産性の平均損失割合

FIGURE 2.に生産性の平均損失割合を睡眠属性ごとに分類した。

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不眠症の人(6.1%)や睡眠不足症候群の人(5.5%)は、睡眠に関して潜在的に問題を抱えている人(4.6%)や良い睡眠を取っている人(2.5%)よりも生産性の損失割合が高かった。

眠気や倦怠感を感じている時にパフォーマンスの低下

FIGURE 3.に眠気や倦怠感を感じている時にパフォーマンスの低下を感じる人の割合を示す。

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(縦軸が該当者の割合、横軸が左から、注意力、判断能力、記憶力、モチベーション)

眠気や倦怠感がパフォーマンスを大きく悪化させることが確認された。
明らかに、睡眠に障害を抱えている人の方がパフォーマンスの低下を感じる人が多かった。
また表には記載していなが、集中力、社会的機能、コミュニケーション能力も同様の傾向があった。

睡眠属性と安全性

FIGURE 4.に睡眠属性と安全性の結果を示す。

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(縦軸が回答者の割合、横軸が左から、職務中の意図しない眠り、眠気に起因した家での負傷、運転中の居眠り、眠気に起因したニアミスや事故)
全ての項目において、睡眠の障害が安全性を低下させることが確認された。
また、今回の研究において、不規則なスケジュールの労働者は通常のスケジュールの労働者と比較して、全てのWLQの指標が大幅に低かった。

生産性損失に起因した推定年間損失額

上記の結果を踏まえ、各参加企業から提供された給与額をもとに、睡眠不足による経済的損失を計算した。

TABLE 2.に生産性損失に起因した推定年間損失額を睡眠属性ごとに示す。

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従業員1人あたりの平均年間損失額は、不眠症の人で最大で、従業員1人あたり3156ドル(4社の範囲は2531ドルから3980ドル)となった。

睡眠不足症候群の人の平均値は従業員1人あたり2796ドル(範囲、2410ドルから3556ドル)であり、睡眠に関して潜在的に問題を抱えている人の平均値は従業員1人あたり2319ドル(範囲1790ドルから2996ドル)となった。
また、良い睡眠を取っている人の平均値は最も低く、従業員一人当たり平均して1293ドル(範囲、$ 1148から$ 1593)となった。

今研究の結論

調査の結果、 10人に1人(9.6%)が不眠症を、16人に1人(5.9%)が睡眠不足症候群の基準を満たしており、良い睡眠を取れている人は半分にも満たなかった(44.8%)。
睡眠の障害と職務遂行能力及び生産性の低下には強い相関が確認され、不眠症の基準を満たす人が特に最大となった。
睡眠に関連する生産性の損失は、従業員1人あたり年間1967ドルかかると推定された。
睡眠に課題を持つ人の検出を進めていき、治療していくことによって、職場の安全性と生産性を大幅に改善し、それに伴い経済的損失を大きく削減できる可能性が浮き彫りとなった。