睡眠の質が低くなる12個の要因|論文や書籍の調査結果
睡眠について
睡眠は、大きく分けてレム睡眠とノンレム睡眠に分けられます。
睡眠初期にはノンレム睡眠の存在比率が増え、睡眠後期にはレム睡眠の比率が増えます。
睡眠の質に関する世の中の認識として、深いノンレム睡眠をしっかりとれば良いという方が多いと思いますが、これは間違いであり、レム睡眠・ノンレム睡眠はどちらも重要で、片方だけが多くても必ずしもいい睡眠ということにはなりません。
むしろ、知的作業にはレム睡眠が重要であり、他の霊長類と人間とを比較すると、人間はレム睡眠の比率が2倍以上高いという特徴があります。
睡眠時間を削ると、睡眠後期に高い存在比率を持つレム睡眠が多く削られるため、十分なレム睡眠を取ることができなくなります。
そのため、十分な睡眠時間を確保する必要があります。
Nobiでは、深い睡眠の割合がどれくらいだとその人にとってベストなのかを主観データを用いて定義しています。
どれくらいの割合だと良い睡眠の質なのか確認してみましょう。
睡眠の仕組み(メカニズム)について
睡眠と覚醒に関わるメカニズムは大きく分けて2つあります。
ホメオスタシスと概日リズムというものです。
1.ホメオスタシス(生体恒常性)
ホメオスタシスとは、生物において内部環境を一定の状態に保ちつづけようとする恒常性機能のことであり、人間には覚醒状態が続くと眠気が大きくなるフィードバック機構が備わっています。
この役割を大きく担っているのがアデノシンです。
アデノシンは、私たちのエネルギー源であるATPの代謝産物であることから、起床(活動)時間に比例して増えていきます。
また、アデノシンが増えると覚醒作用を持つヒスタミンの分泌が抑制されるため、夜になるとアデノシンの濃度が高まり眠気が大きくなります。
2.概日リズム(サーカディアンリズム)
概日リズムとは、睡眠と覚醒、体温変動、摂食等に関連する24-25時間周期の生体リズムのことであり、概日リズムによりメラトニン濃度の増減がコントロールされています。
血中のメラトニン濃度が高まると眠気が増え、低くなると眠気が無くなります。
網膜からの光刺激が脳の視床下部に位置する視交叉上核に伝わり、上頸神経節を経由して松果体に信号が出ることでメラトニンが生合成され血中に分泌されます。
そのため、概日リズムが乱れることでメラトニン生成のリズムも乱れてしまいます。
影響因子として、光、体温、食事等の暴露量や暴露時間が挙げられます。
睡眠の質が低くなる12個の要因
以上の睡眠の仕組みなどに影響して、睡眠の質が低くなる要因を12個紹介します。
要因1:アルコールの摂取
アルコールを飲んで寝ると、分解代謝物であるアルデヒドの影響で麻酔を使った時のような気絶状態に近い脳波の睡眠となってしまいます。
そのため、レム睡眠、ノンレム睡眠共に十分に取れなくなってしまい、睡眠の質が低下してしまいます。
要因2:カフェインの摂取
カフェインはアデノシンと構造が似ており、アデノシンが受容体と結合するのを妨げる作用があります。
この作用により、アデノシンによるヒスタミンの分泌抑制作用が弱まり、覚醒物質であるヒスタミンの分泌が促進されるため眠気が減ります。
人の体質によって大きな差がありますが、カフェインの半減期は5時間程度とされているため、摂取後5時間たっても半分のカフェインは体内に残っている状態になります。
夜間に体内にカフェインが残っていると入眠が阻害されるため、入眠の8-12時間前にはカフェインを摂取しないことが望ましいです。
カフェインが入っているものとしてコーヒーが代表的ですが、お茶、コーラ、エナジードリンク、チョコレート等にもカフェインが含まれますので、寝る前に摂取するときは量などに気をつけてみてください。
要因3:遅い時間の仮眠
寝ることによりアデノシンの濃度が低下します。
夕方等の遅い時間に仮眠を取るとそれまで蓄積してきたアデノシン濃度が急激に低下してしまうため、夜の入眠が阻害されてしまいます。
入眠が阻害されるだけでなく、睡眠の時間帯のバランスが崩れることでも睡眠の質が下がるので気をつけましょう。
要因4:部屋の光の明るさ
概日リズムは24時間より長いため、徐々に入眠時間は遅れていくが、起床時に日光を浴びることにより入眠時間をリセットすることができます。
光の信号が眼球に入った14時間後にメラトニンの生産が開始され、16時間後に最大値となるため、寝る16時間以上前に日光を浴びることで寝たい時間帯に眠気を発生させる事ができます。
逆に、夜間に光を浴びるとメラトニン生成が抑制されてしまいます。
家の照明の明るさは800ルクス程度であるが、200ルクスで50%のメラトニン生成が阻害され、500ルクスでメラトニンの阻害影響が飽和され最大値となります。
そのため、夜間は間接照明等を使用することが望ましいです。(100ルクス未満)
電子機器のブルーライトカットも有効ではあるが、青の波長以外の光もメラトニン生成を阻害するため、夜間の使用は控えた方が良いです。
また、瞼が閉じていても光は感知されるため、睡眠時には照明を切り遮光カーテンを使って暗室とするのが望ましいです。
要因5:室温の高さ
人は深部体温が下がることで、メラトニン生成が誘発され眠気が誘発されます。
そのため、体温が変動するタイミングが重要であり、体温を上げる入浴や運動は3時間前までに済ませると入眠に効果的です。
また、室温が高いと放熱が進まなくなるため、入眠前や睡眠時は室温を低く設定した方が良いです。
さらに、体温は手足等の末端部位や顔からの放熱によって低下するため、この部分は露出させることでより深部体温が下がりやすくなります。
要因6:ストレス
ストレスが溜まると交感神経が活性化し、代謝が高くなり体温が上がるため眠りずらくなります。
要因7:入眠前のタバコ
タバコのニコチンも交感神経を活発化するため、睡眠の質を高めたい方は入眠前は控えることをおすすめします。
要因8:不規則な食事
食事の時間も概日リズムに影響を及ぼすため、規則正しい時間に食事をすることをおすすめします。
要因9:栄養バランスの崩れ
睡眠の質を高めたい方は、バランスよく栄養を摂取する必要性があります。
メラトニンを合成するには、腸内環境を含めた体全体の代謝が整っている必要があるため、タンパク質、脂質、炭水化物、食物繊維、ビタミン、ミネラルをバランスよく摂取することが望ましい。
要因10:トリプトファンの摂取
入眠作用があるメラトニンを合成するためには、必須アミノ酸であるトリプトファンの摂取が必要であり、トリプトファンは体内で合成できないため、必ず食事によって摂取する必要があります。
要因11:呼吸のしにくい状態
鼻炎や過体重であったり、高さがある枕など自分に合わない寝具を使用すると、呼吸が安定しなくなり夜間に起床してしまいます。
夜中よく目を覚ます方や、睡眠をよくとってもなかなか疲労感が抜けない方はこの原因が考えられますので、対策できる道具などを試してみると睡眠の質が高まる可能性があります。
要因12:外部刺激
光や音、振動等の外部刺激や、頻尿等も夜間の起床要因となります。
そのため、これらの要因はできるだけ改善すると睡眠の質が改善させることがあります。
対策法について
こちらの記事に睡眠の仕組みから考えた対策法がありますので、参考にご覧ください。
まとめ
睡眠は毎日行う行為で、人間にとって必要な行動です。
睡眠の質が悪い日が続くと、体だけでなく精神的な部分などにも影響を及ぼすことことがありますので、もし自分に当てはまる部分がありましたら、改善してみてください。
参考文献
- 「睡眠こそ最強の解決策である」 著者 ウォーカー,マシュー 翻訳 桜田直美 2018年5月28日 初版第1刷発行 2018年6月15日 電子第1版発
- 「睡眠と覚醒 最強の習慣」 著者 三島 和夫
- 服部淳彦(2017).メラトニンとエイジング 比較生理生化学34巻1,2-11.