オフィスワーカーの心肺機能と座る時間は病欠期間と関連
調査した研究論文について
オフィスワーカーの病欠に影響を及ぼす因子について、カロリンスカ研究所及びスウェーデン体育医療大学のブロム博士が2020年に行った研究を要約したものになります。
文献:Cardiorespiratory Fitness and Device-Measured Sedentary Behaviour are Associated with Sickness Absence in Office Workers
今研究の要約
この研究の目的は、オフィスワーカーの心肺機能、様々な強度の身体活動(激しく動く、あまり動かない等)および座る時間に対する病気の欠勤期間と頻度との関連性を評価することである。
参加者をスウェーデンの2社から募り、159人のオフィスワーカー(女性の比率67%、43±8歳)が被験者となった。
個人情報及び病気の欠勤期間と頻度に関するデータは質問票を介して収集した。
測定デバイス(ActiGraphとactivPAL)を使用して日頃の身体活動状況を評価し、最大サイクルエルゴメトリー試験によって心肺機能を算出した。
その結果、心肺機能と欠勤期間のオッズ比は0.92、欠勤頻度のオッズ比は0.93となり、
心肺機能の高さと病気の欠勤期間及び頻度は有意に関連することが分かった。(つまり心肺機能が高ければ病欠期間も頻度も下がる)
また、座る時間と病気の欠席頻度のオッズ比は1.03となり、
座る時間の長さと病気の欠席頻度には正の相関が見られた。(つまり座る時間が長ければ病気の欠席頻度が高くなる)
今回の実験では日常生活における身体活動の強度と病気の欠勤期間及び頻度との関連性は確認できなかった。
既往研究では自己申告による身体活動が高い人は病欠が少ないという報告があるのに対し、デバイスで測定したデータでは身体活動と病欠との関連は見られなかった。
結論として、心肺機能が低く座る時間が多いオフィスワーカーはより病気の欠勤が多くなると言える。
今研究の目的
この研究の目的は、心肺機能、デバイスで測定された身体活動および座る時間が、オフィスワーカーの病気の欠勤期間および頻度と関連しているかどうかを調査することである。
今研究の方法
スウェーデンの民間企業2社のオフィスワーカーを対象に2016年から2017年にかけて行われた「身体活動と健康な脳機能との関連を探すプロジェクト」からデータを収集した。
このプロジェクトの参加者の中から159人(女性106人、男性53人)に被験者となって貰った。
被験者にWebベースの質問票に記入してもらい、追加で個人情報やライフスタイルのデータを集めた。(年齢、学歴、喫煙の有無、健康状態等)
心肺機能(VO2max)はEkblom-Bakを使用し、最大下サイクルエルゴメトリー試験を用いて測定した。
日常における身体活動の状態及び座っている時間は加速度計と傾斜計を着用してもらい測定した。
身体活動は、ベースラインでActiGraph GT3X(ActiGraph、ペンサコーラ、フロリダ州、米国)を使用して測定した。
30 Hzの周波数で3軸加速度をサンプリングし、データは低周波拡張フィルターを使用して60秒エポックとして抽出した。
測定した身体活動の数値に基づいて、身体活動のレベルを以下の4つに分類した。
200–2689 cpm(一分当たりのカウント数)を軽い身体活動、2690–6166 cpmを中程度、6167–9642 cpmを激しい、9642 cpm以上をとても激しい身体活動と定義した。
軽い身体活動(LIPA)、中程度の身体活動(MPA)、中程度から激しい身体活動(MVPA)、激しい身体活動(VPA)のそれぞれに費やされた1日の時間(睡眠時間を除く)の平均パーセンテージを分析に使用した。
座っている時間(SED)は大腿部に装着したactivPALモニター(PAL Technologies Limited、英国グラスゴー)を使用して測定した。
activPALモニターは太ももの角度を測定できるため、座っているのか横になっているのか立っているのかを区別することができる。
座っている時間についても身体活動と同様に睡眠時間を除いた1日の時間の平均パーセンテージで表した。
試験開始から6か月後に参加者にアンケートを行い、病気の欠勤期間と頻度のデータを採取した。
病気の欠席期間は年間0-7日と8日以上に分類し、病気の欠席頻度は年間0-1回と2回以上に分類した。
また、多変量分散分析(MANOVA)を使用して連続変数のグループ間の統計的差異を評価した。
複数のロジスティック回帰分析を実行して95%信頼区間でオッズ比を計算したところ、
分散インフレーション係数は2を超えなかったためモデルの多重共線性は発生してないことが確認できた。(つまりこの結果は信頼できると言える)
なお、統計分析は全てIBM SPSS Statisticsバージョン25(IBM、米国ニューヨーク州アーモンク)で実行した。
研究結果
表1に各項目(年齢、教育、性別、喫煙の有無、普段の健康状態、座る時間、心肺機能、身体活動量の大きさ)の値を整理したものを示す。
心肺機能と病気の欠勤期間及び頻度には明らかな関連性が見られた。また、座る時間に関しても関連性が確認された。
しかし、これは相関があることが確認されただけであり、この二つの要素と病気の欠勤期間及び頻度との間に因果関係があるかどうかを結論づけることはできない。
それは各項目同士にも相関関係があるためである。
例えば、全ての身体活動の活動量の多さと心肺機能との間には有意な関連性があり(F値が有意水準より高かった)、
男性、若さ、健康状態の良さに関しても心肺機能と高い相関を持っている。
そのため、各項目のどれが病欠の期間及び頻度に関して寄与しているのか(因果関係がどの項目にあるのか)を調べるために、各項目を調整したモデルを作成し、各項目の影響を排除して評価を行った。その結果を表2と表3に示す。
表2は各項目と病欠期間とのオッズ比を示した表となっており、表3は各項目と病欠頻度とのオッズ比を示した表となっている。
この結果から、心肺機能と病欠期間及び頻度が関連していることが確認された。
心肺機能と欠勤期間のオッズ比は0.92(95%信頼水準で信頼区間0.87–0.96)、欠勤頻度のオッズ比は0.93(95%信頼水準で信頼区間0.90–0.97)となり、
心肺機能の高さと病気の欠勤期間及び頻度は有意に関連することが分かった。この結果は心肺機能が高ければ病欠期間も頻度も下がることを意味している。
座る時間の長さと欠席頻度が関連していることが確認された。
座る時間と病気の欠席頻度のオッズ比は1.03(95%信頼水準で信頼区間0.99–1.08)となり、
座る時間の長さと病気の欠席頻度には正の相関が見られた。この結果は座る時間が長ければ病気の欠席頻度が高くなることを意味している。
また、今回の実験においては日常生活における身体活動の強度の割合と病欠期間及び頻度に統計的に優位な差は生じなかったと言える。
結論
今回の実験では、心肺機能が低く座る時間が多いオフィスワーカーは病気で欠勤するリスクが高い傾向があることが示された。
そのため、雇用主が従業員の病欠期間及び頻度を下げるための方法として、オフィスワーカーの心肺機能を向上させることと、座る時間を減らすことが挙げられる。