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腸内環境の整え方について|腸内細菌の状態別の対処法

腸内環境の整え方について|腸内細菌の状態別の対処法
2021年1月7日
研究により腸内環境が悪いと糖尿病、がん、精神疾患などのリスクが高くなることが分かっています。 今回の記事では複数の文献を概観し、腸内細菌を整える方法について科学的エビデンスに基づいて詳しく解説します。

腸内環境が乱れるとどうなるのか

私たち人類(ホモサピエンス)は約600万年にも渡って腸内細菌と共生して生存&進化してきたため、人体における重要な機能(免疫や消化吸収)は腸内細菌が適切に働くことが前提とした設計になっており、腸内細菌が乱れると様々な悪影響が生じてしまいます。

例えば、大腸内には消化管上皮細胞から分泌された粘膜層が分厚く形成されていますが、この粘膜層は細菌がいる上層といない下層に分かれています。
上層に細菌を住まわせ細菌が生産した様々な代謝物を選択的に体に吸収する一方で、細菌から体を防御するために細菌が存在できない下層を作り腸の粘膜内への侵入をブロックしています。

腸内環境が崩れると下層の粘膜層が薄くなり、今まで消化管上皮細胞に作用してこなかった代謝物が作用するようになります。
すると上皮細胞同士を結び付けていたタイトジャンクションが緩み、この隙間から細菌や細菌が出した毒素、食品由来の未消化の物質など通常体内に入ってこない物質が血液中に侵入してくるようになってしまいます。
この状態はリーキーガット症候群(漏れる腸)と呼ばれ、通常体内に存在すべきでない物質が体内に循環し代謝が至る所で乱れることで、がん、動脈硬化、糖尿病、認知症、鬱などの発症に繋がります。

消化管上皮細胞に作用しタイトジャンクションを緩める代謝物はありふれたものであり、例えばパンに含まれるグルテンの分解産物であるグリアジンや、アルコールやカフェインが挙げられます。
パン等の摂取を控えることである程度はリーキーガット症候群を防ぐことはできますが、タイトジャンクションを緩める代謝物の摂取を完璧に無くすことは難しいため、
腸内環境を維持し下層の粘膜層を分厚く守ることでこれらの代謝物を上皮細胞に到達させない戦略が有効だと言えます。

腸内環境の乱れの指標

腸内環境の乱れは以下の指標で測ることができます。

1.多様性

一般的な人には腸内に数百種類もの細菌が存在しています。これらの細菌は同じような性質を持つグループに分けることができます。
人の腸内には4つのグループ(バクテロイデス門、フィルミクテス門、プロテオバクテリア門、アクチノバクテリア門)の細菌が存在しており、前者の2種で約90%を占めています。
研究により多様性の低下と粘膜層の薄さに関連が見られることが分かっています。
多様性の低下は他にも様々な問題を引き起こし、例えば多様性が低下しフィルミクテス門の存在割合が増えると太りやすくなる傾向があることが分かっています。

2.適切な場所に適切な数の細菌がいるかどうか

腸内細菌の数は腸の場所によってかなり異なっており、1ml当たりの腸内細菌の数は空腸(小腸の前部)で1,000~1万個、回腸(小腸の後部)で1,000万~10憶個、大腸で100億~1兆個にも及びます。
適切な場所に適切な数の細菌が存在するかどうかは非常に重要であり、
例えば小腸内で細菌が過剰に増えすぎるSIBO(小腸内細菌異常増殖)という状態になるとリーキーガットになりやすくなることが分かっています。

腸内環境の整え方

腸内環境の整え方として万人に共通するものはなく、腸内細菌の多様性が低い人、適切な場所に細菌がいない人、腸内細菌が少ない人、多い人で対処法が大きく異なります。
適切な診断を受けるためには消化器内科に行く必要があります。

多様性が低い人

ω-3系不飽和脂肪酸(EPAやDHA)や中鎖脂肪酸(ココナッツオイル)、野菜は多様性を高めることが分かっている食品です。
多くの細菌は短鎖脂肪酸や中鎖脂肪酸、水溶性の食物繊維を栄養源にしているため、これらの栄養素を摂取すると多くの細菌が生存することができます。
一方、糖質や脂質の分解能力は細菌によって大きな差があるため、これらの栄養素ばかり取るとこれらの栄養素をエサにしにくい細菌が死滅し多様性が低下します。
多様性を高めるためには上記の栄養素をきちんと摂取し、バランス良く食べることが重要だと言えます。

また、食物繊維を食べないと腸内の粘膜層が薄くなりリーキーガットの危険性が高くなることが報告されています。
これは飢えた腸内細菌が食物繊維の代わりに腸内の粘膜層をエサにするためです。粘膜層の構成成分であるムチン(高分子粘性糖タンパク質)は食物繊維と類似した構造を持っています。

食物繊維は便の量を増やし体内の便の残留時間が短くする効果もあります。
便の体内残留時間は細菌の多様性に大きな影響を及ぼしており、便秘等により長くなると多様性が低下します。

適切な場所に細菌がいない人

小腸の吸収障害(過剰に食べ物を摂取している等)によって大腸内に本来来るはずのない栄養源が運ばれ大腸内の細菌構成が変化するパターンと、
腸の動きが阻害されることで小腸に大腸からの細菌が移動してくるパターンがあります。
前者では食事制限が有効であり、後者では空腹の時間を作ることが有効です。

空腹の時間を作ると蠕動運動(伝播性消化管収縮運動)といって、腸が動くことが知られています。これは食事をしていない時に約90分毎に発生します。
腸が動くことで細菌を小腸から大腸に送り込み、小腸内の過剰な細菌の繁殖を防ぐことができます。
間食をすると消化のために腸の動きが止まるため、小腸内で菌が増加しやすくなります。

また、運動によって物理的に腸を動かすことも効果的です。
運動をすると腸が物理的に攪拌されるため腸内細菌がコロニーを形成し辛くなります。

細菌が少ない人

現代的な食生活(肉や糖質が多くカロリー過多)をしている人や便が少ない人はこちらに当てはまる可能性が高いと言えます。
高脂肪、高糖質の食生活は細菌数を減らすだけではなく多様性も低下させます。腸内細菌のエサになる食物繊維と発酵食品を食べることで改善されます。

細菌が多い人

間食を控え定期的にファスティング(カロリー制限)をすることで改善されます。
また、一般的な腸内環境の改善策とは逆に食物繊維や発酵食品を減らすことが重要です。
低FODMAPと呼ばれる食事療法があり、多くの研究で有効性を支持する結果がでています。

参考文献

  • 腸内細菌の逆襲 お腹のガスが健康寿命を決める(著者:江田証/出版社 : 幻冬舎 (2020/5/28))
  • あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた(著者:アランナ コリン/出版社 : 河出書房新社 (2016/8/10))
  • ダイエットの科学(著者:ティム・スペクター/出版社 : 白揚社 (2017/4/23))
  • 遺伝子は、変えられる。――あなたの人生を根本から変えるエピジェネティクスの真実(著者:シャロン・モアレム /出版社 : ダイヤモンド社 (2017/4/20))
  • 消化管ムチンを介した微生物と宿主の相互作用