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健康

心肺機能と認知症の発生率及び死亡率との時間的変化:人口ベースの前向きコホート研究

心肺機能と認知症の発生率及び死亡率との時間的変化:人口ベースの前向きコホート研究
2020年12月18日
心肺機能と認知症の発生率及び死亡率について、ノルウェー科学技術大学医学運動センター所長のウルリク博士が2019年に行った研究を要約したものになります。認知症は認知機能の低下、つまり脳の機能低下であり、この論文は運動による心肺機能の向上が脳の機能低下を防ぐことを意味しています。

調査した研究論文について

心肺機能と認知症の発生率及び死亡率について、ノルウェー科学技術大学医学運動センター所長のウルリク博士が2019年に行った研究を要約したものになります。
この研究者は運動生理学の権威であり、この分野で最も文献が引用されています(72,000回)。
認知症は認知機能の低下、つまり脳の機能低下であり、この論文は運動による心肺機能の向上が脳の機能低下を防ぐことを意味しています。
文献:Temporal changes in cardiorespiratory fitness and risk of dementia incidence and mortality: a population-based prospective cohort study

今研究の要約

33,000人が1980年代と1990年代に2回生活スタイルと健康状態を調査され、その後認知症になったかどうか、また認知症関連で死亡したかどうか追跡調査をされた。
認知症を発症するリスクは、1980年代と1990年代の両方で運動レベルが高かった人々の方が両方で低かった人と比べて40%低かった。
また、2つの調査の間に運動レベルが低い状態から高いレベルに変化した場合、そのまま低かった場合と比べて認知症を発症するリスクが48%低下していた。
今回のノルウェーを対象とした人口ベースの前向きコホート研究により、長期にわたる心肺機能の維持または改善が認知症の発生率とその死亡率のリスクを減らし、認知症の発症時期を遅らせることが分かった。

今研究の前書き

認知症は日常生活が正常に送れない状態になるほどの重度の認知機能の低下を特徴とする脳疾患であり、
様々な原因で脳の神経細胞が減少していくことで発症します。
診断後の生存期間は認知症の種類や発症年齢によって異なりますが、中央値は男性で約5年、女性で約7年です。
2017年の時点で認知症の人は世界中に5,000万人存在し、2050年までに1憶5000万人に達すると言われています。
現在利用可能な治療法は無く、研究によって様々な治療法が模索されていますが認知症の治験の失敗率は99.6%という結果に陥っています。
そのため認知症を予防することは非常に重要であると言えます。

今研究の目的

心肺機能の経時変化と認知症発生率及び死亡率、認知症の発症期間、寿命との関連を評価すること。

今研究の方法

ノルウェーでは国民がHUNTと呼ばれる健康診断を長期に渡って受けている。HUNTでは生活スタイル及び健康状態を臨床検査及びアンケートで調査している。
本研究では対象者が過去に受けたHUNTのデータを使用し、生活スタイル及び健康状態を把握した。
使用したものは1980年代(HUNT1)と1990年代(HUNT2)のデータである。
また、HMSと呼ばれる健康状態と記憶に関する別の研究調査の結果を用いて認知症の発症データ(発症時期、発生率など)を算出した。
さらに、国内の全ての死亡診断書を収集しているノルウェーの死亡原因登録データベースにおける登録情報を用いて認知症関連死亡率を算出した。
これら全てのデータを11桁の個人識別番号を使用して紐づけし、カイ二乗検定、重回帰分析、コックス比例ハザード回帰分析等の統計分析を行った。

研究結果

認知症及び心肺機能に関連する因子を調整し、これらの影響を除いた。
(年齢、喫煙状況、肥満度指数、糖尿病、教育、高血圧、コレステロール、脳卒中の家族歴、性別)
これらの影響を取り除いて算出した心肺機能の変化による認知症の発生率と死亡率のハザード比をTable3に示す。
心肺機能の変化による認知症の発生率と死亡率のハザード比

ハザード比(HR)は相対的な危険度を示す指標であり、今回の場合HUNT1とHUNT2両方で心肺機能が低かった人の発症率を1とした場合の他のケースの割合を示している。
両方の時点で高い推定心肺機能を維持した参加者のHRは0.60(95%信頼区間 0.36–0.99)となり、両方で心肺機能が低かった人と比べて40%認知症の発症リスクが低いことが分かった。
また、時間の経過とともに心肺機能を向上させた参加者(HUNT1で低くHUNT2で高い)のHRは0.52(95%信頼区間 0.30–0.90)となり、両方で心肺機能が低かった人と比べて48%認知症の発症リスクが低くなった。

次に、心肺機能と認知症の発症率の変化をFigure 2に示す。
心肺機能と認知症の発症率の変化

この図より心肺機能が増加すると明らかに認知症のリスクが低下することが確認できた。

また、Figure 3に心肺機能の変化による認知症関連死亡率の生存曲線を示す。
心肺機能の変化による認知症関連死亡率の生存曲線

この図より、心肺機能が低下すると認知症関連死亡率が高くなることが分かる。
両方で心肺機能が高い参加者は両方で低かった人達と比べて認知症にならない年が1.1年増加し、(95%信頼区間 0.3–1.9、p=0.01)
時間の経過とともに心肺機能を向上させた参加者は両方で低かった人達と比べて認知症にならない年が2.2年増加した。(95%信頼区間 1.0–3.5、p=0.01)

結論

今回の研究により、心肺機能の改善により認知症の発症リスクが40-50%、認知症関連の死亡リスクが30-40%減少することが分かった。
年齢が中年以降になったとしても、年齢相対的に高い心肺機能を維持することによって認知症のリスクは大幅に低減できる可能性があると言える。

参考文献

Temporal changes in cardiorespiratory fitness and risk of dementia incidence and mortality: a population-based prospective cohort study