パフォーマンスに関する情報をお届けします
運動

論文、書籍で調査したストレッチによる健康的悪影響の解消法

論文、書籍で調査したストレッチによる健康的悪影響の解消法
2020年10月30日
日本人は、世界的に見ても働く時間が多く、座る時間も多い国です。座っている時間が長くなると、体が固くなってしまい、腰痛や肩こりなど様々な健康的悪影響が発生する人がいます。今記事では、体が固くなる原因から、ストレッチによる解消法までを解説します。

体が硬くなることによる健康的悪影響

筋肉の緊張状態が続き、体が硬くなると様々な身体的悪影響が生じてしまいます。
体が硬くなると、腰痛や肩こり等の原因になるだけでなく、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの組織的な損傷にも繋がるため、できるだけ改善していくことが望まれます。

例えば、椎間板ヘルニアは髄核の突出・逸脱によって神経が圧迫される病気であり、しびれや神経痛が発生します。
特に20-50代のデスクワーカーに幅広く発生する症例であるため、ビジネスマンにとっては決して他人事ではありません。

これらの症例は姿勢が悪化していることが原因であり、体の柔軟性を高めることによって姿勢が改善が見込まれます。
なので、できるだけ体を柔らかくし、正しい姿勢を保つことが重要になります。

体を柔らかくするためにストレッチがおすすめ

体を柔らかくする方法として、ストレッチが有効です。
ストレッチをすると体の緊張を解くことができ、硬くなった体を柔らかくすることができます。
今回は、ストレッチにより体を柔らかくなる仕組みと、体が硬くなる原因とその対策、効果的なストレッチ方法について説明します。

ストレッチが体を柔らかくする仕組み

そもそも、体が硬いとはどういう状態でしょうか?

結論から言うと、①筋肉が伸びにくい状態と、②関節及び結合組織が線維化してしまっている状態の2つに分けることができます。

①筋肉が伸びにくい状態

まず、筋肉が動く仕組みについて説明します。
筋肉の最小単位である筋束はミオシンフィラメントとアクチンフィラメントで構成されており、この二つが脳からの信号によって接着と離脱とを繰り替えすことによって筋の収縮が行われます。
(詳細に述べると、運動ニューロンが神経伝達物質であるアセチルコリンを放出し、これが筋繊維の運動終板に達することによって活動電位が引き起こされ、これによって筋小胞体からカルシウムイオンが放出され、アクチンフィラメントとミオシンフィラメントの結合が可能となる。)

この結合は生体内のエネルギー物質であるATPによって解除されるのですが、血行不良によって酸素量が低下するとATPが不足してしまいます。
ATPがミオシン-アクチン間に供給されないと、筋肉が繋がったままになってしまいます。

ここで重要なのがストレッチです。

筋肉には、Ib抑制と呼ばれる筋を保護する仕組みが備わっており、ゴルジ腱器官が筋肉が極度に伸張されているのを感知すると、脊髄反射によってその部位が一時的に弛緩するようになっています。
ストレッチによって緊張した筋肉を伸張すると一時的に筋肉が弛緩し血行が良くなるため、ATPが細胞内で適切に生産されるようになり、ミオシン-アクチン間の結合解除が進み、筋肉が長期的に弛緩するようになっていきます。

②関節及び結合組織が線維化してしまっている状態

関節及び結合組織はコラーゲンやエラスチンなどの線維タンパクと、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などのムコ多糖によって構成されているのですが、この線維タンパクが増加し、密集して高密度化すると可動性が悪くなってしまいます。
その理由として、ヒアルロン酸の凝集が挙げられます。

ヒアルロン酸は筋肉で潤滑油的な機能を果たすのですが、不溶性である繊維が増加し高密度化すると、分散していた水溶性のヒアルロン酸が凝集化してしまいます。
そうすると、体内の間質液が脱水を起こして粘り気を帯びてしまい、組織間の滑りが悪くなってしまいます。これが体が伸びにくい原因です。
そのため、組織の過度な線維化を防ぐことは非常に重要ですが、この関節及び結合組織部が線維化する原因として、血行不良が挙げられます。

血行不良になると、CTGF(結合組織成長因子)やVEGF(血管内皮増殖因子)の分泌が高まりますが、CTGFは線維化を進め、VEGFは血行不良状態においては成熟せず細胞同士の癒着に寄与してしまいます。
そのため、ストレッチによって血行を良くすると、CTGFやVEGFの過度な分泌を抑えられ、組織の過度な線維化を防ぐことができます。

体が硬くなる原因とその対策

上記を踏まえた上で、体が硬くなる原因について説明します。
体が硬くなる原因として、主に3つが挙げられます。

①長期間同じ姿勢でいること

長期間に渡るデスクワークなどによって同じ姿勢をとると、ある一定の筋肉にばかり負荷が掛かってしまいます。
同じ筋肉ばかりを使用すると、その内部及び周囲の血行不良が生じてしまい、その近辺の組織にATPの不足、線維化及びヒアルロン酸の凝集が進んでしまいます。

②正しい姿勢をとらないこと

これも上記と同じ理由になります。
人の体の仕組みとして、ある筋肉が収縮する(動筋)と、それに対応する筋肉が緩む(拮抗筋)ようになっています。
正しい姿勢をとらないと、一方の筋肉が高負荷な状態が続き、筋肉の負荷のアンバランスが生じます。

また、正しい姿勢を取ったとしても、長期間同じ姿勢では同じ筋肉を使うことになってしまうため、適度に体勢を変えることが重要です。

③運動不足により、体の様々な部位を動かさないこと

運動することによって、血行が良くなります。
研究により、体の筋肉を動かさないと、筋サルコメア(ミオシンフィラメントとアクチンフィラメントの最小単位)の数や長さが減少することが示されています。

また、運動などによって関節を動かさないと、コラーゲンの細かい線維同士が強力に接着することが報告されています。

効果的なストレッチ方法

ストレッチには様々な種類がありますが、体の柔軟性を高めるためには、静止した状態からゆっくり体を伸ばすスタティックストレッチが有効です。
実際に、リハビリなど医療の現場でも治療としてスタティックストレッチが主に活用されています。

ここで重要なのが、ストレッチの有効な時間として、一つのストレッチにつき15-30秒とされていることです。
15秒以下だと効果が薄く、60秒以上行うと組織を痛めるため効果が薄いとされています。

実際に、アメリカスポーツ医学会のガイドラインでは、15-30秒を、週に5-7回やるのが望ましいと明記されています。

参考動画

まとめ

いかがだったでしょうか。運動がする時間がないけど、ストレッチなら場所も時間もそこまで取られずに行えると思うので、定期的に数分から初めてみてはいかがでしょうか。

参考文献

  • 正しく理想的な姿勢を取り戻す 姿勢の教科書 著者: 竹井仁 出版社 : ナツメ社 (2015/11/19)
  • 体が硬い人のためのストレッチ 著者: 荒川裕志 出版社 : PHP研究所 (2012/6/18)
  • 関節拘縮における滑膜の分子生物学的変化の検討 (外林大輔 森ノ宮医療学園専門学校 柔道整復学科)
  • 関節拘縮 その予防・治療について(赤居正美 リハビリテーション医学2003; 40: 76-80)
  • ストレッチング(大工谷新一 関西理学3; 1-7,2003)